これは私の左膝です。
膝にもしあざが出来たら洋服で隠すことができますが、お顔にあざのある故人様だったら、どうやって隠したらいいでしょうか?
多くの方は、なるべくなら亡くなった方のお顔を見て最後のお別れをしたい、と考えておられます。
そしてお別れのお顔は「おだやかで安らかなお顔」であったり、「眠っているようなお顔」であったらいいと望んでいるように思います。
しかし、怪我や亡くなった後の変化によって、お顔に変色やあざ、傷のある方も少なくありません。そしてそのままだと、最後のお別れの時間にどうしても普段のお顔にはないその部分に目がいってしまいます。
それらをいかに目立たないように化粧するのかも、納棺師の大事な仕事の一つです。
濃い化粧をナチュラルに見せる
故人様のお顔に変色や傷がない場合には、普通の方のお化粧に少し血色を足していくような自然さでメイクを行うことができますが、濃い色のあざがある時には薄化粧では隠しきれません。
さらに全く化粧をしていない方や男性の方の場合には、化粧を希望されないご家族が多いです。
そのような方々にカバーメイクをする時には、隠したい部分を隠しつつも普段のイメージに近づくようにしなければなりません。
薄くて自然な化粧が難しいとしても、目指すのは、濃くても自然な化粧です。
単純に考えて、濃い化粧が自然なわけはありませんので、これは結構難しいと私は今でも思います。
自分のあざで練習しよう!
今週、ちょうど私の足にあざができたので、私がカバーメイクの時にどういうことをしているかを皆様にお伝えしたいと思います。
台やストレッチャーに、よく足をぶつけてしまうんです。
実は、一番初めの画像があざを化粧で隠していたものでした。
実際はこのように青紫色のあざが出来ています。
変色を隠す場合に難しいのは、どうやって隠した部分を他の肌色部分となじませるか、という事ではないでしょうか。
あざを目立たなくするためのメイク道具
現場では主にご遺体用に特化した化粧品を使っていますが、今回は皆さんも生活の中で参考にしていただけるように、一般的なメイク用品であざを隠していきます。
以下は、私が普段自分の顔に使っている化粧品です。
- 4色パレット(シャレナ カバーファンデーション アソート)
- フェイスパウダー(シャレナ シルキィパウダー SP-4)
1 オレンジを塗る(左上1)
左上のオレンジ(左上1)を手の甲に伸ばしてよく練ります。
このときパレットから取ったオレンジ色を、すぐにあざ部分へのせてもうまくのりません。
体温で伸ばすことが大切です。
パンに固いバターを塗ろうとしてもなかなかうまく伸びませんよね。室温に少し置いて(温めて)柔らかくなったバターなら伸びやかに塗ることができるのです。
2 肌に近い色を塗る(左下3と右下4)
次は肌に近い色を塗っていきます。
私の場合はパレットの下の2色(左下3と右下4)を混ぜるとちょうど肌の色に近いので、こちらも手の上で練ってから先ほどのオレンジの上に重ねて塗っていきます。
あとは色味を少し調節して、フェイスパウダーをはたいたら完成です。
ビフォーアフター
初めの状態との比較画像です。
携帯で撮っているので色味が少し変わってしまいましたが、あざ部分をメイクで濃く隠しつつも、なるべく自然に仕上げたつもりです。
自然なお化粧を目指す理由
亡くなった方のお化粧に違和感があると、その部分がずっと気になってしまって、悲しみに集中できないのではないかと思います。
逆に、亡くなった方が普段のお顔に近いと、そのお顔を見ているうちに、ご家族や集まったご近所の方からいろんな思い出や記憶があふれてくるように思います。
畑仕事をしていたおばあちゃんなら、日焼けをした肌色の感じが普段に近いでしょうし、いつも赤ら顔だったお父さんはその赤みをメイクで隠してしまわないのが本人らしいとご家族は考えておられます。
普通、というのも人によって様々です。
生きている人がするような欠点を隠すメイクは、そのまま死化粧には当てはまりません。美を目指すメイクでは欠点と思える部分を隠さないのがその人らしい、という事もあるのです。
なるべく自然な化粧に仕上げることは、お身体の状態によっては叶わないこともありますが、出来うる限りその人なりの普段らしさを再現できたらと、私は考えています。
(番外編)口紅を使うとどうなるか
口紅であざを隠すことはできるのかな?と思ったのでやってみました。
丸ちゃん、チャレンジャーだね
最後まで読んでいただいて、ありがとうございます!
コメント
8月の初旬に実母の葬儀を済ませました。エンバーミングの日、私は都合により参加できず、兄が立ち会いました。
葬儀前日、斎場の母の部屋に行ってお顔を見て少し驚きました。
口元が一文字だったので。生前こんな表情は見たことがないので違和感を感じました。知識がなかったことが少し悔やまれますが、それでは母に申し訳ないなと。もし母がとても気の強い女性だったらこんな表情をするのかなぁ、とか、私の知らないところでこんな表情で食いしばっていたのかなぁ、と思いを馳せながら見送りました。
納棺師のお仕事、未知なことばかりでしたが、このコラムを読んで、胸が熱くなりました。ありがとうございました。
鎌倉裕子 様
コメントいただきまして、ありがとうございます。
鎌倉様のお母様、エンバーミングをしてお見送りをなさったのですね。8月の初旬とは今月のことで、まだひと月も経たずお心が揺れ動く中でお話ししてくださり、おそれいります。
最後のお顔とその表情を見ると、いろいろ思い浮かぶお気持ちあると思います。「口元が一文字だったので。生前に見たことのない表情で違和感を感じ」たとのこと。それはいつものお母様に思えなくて驚かれましたね。
どうしてそんな表情なの?、と尋ねても答えは返ってこなくてわからないので、なんでだろうとぐるぐる落ち着かないお気持ちになられたかもしれません。エンバーミングをする中でもしかしたら口元が一文字になってしまった理由が何かあったのかもしれませんが、その点も私にはなんともわからず。
そのような中で、鎌倉様が(お母様が)もしこうだったら、というお考えでお見送りされたこと、すごいことと私は感じました。
起こってしまったことは、もし後でその事柄は改善することができたとしても、事柄について思った気持ちを消すことはできません。
そのような中でぐるぐるの気持ちがなんとか落ち着けるクッションのような場所を、ご自身の心の中にわずかにでも作ってくださったこと、申し訳なくありがたいことと思います。
鎌倉様、お母様のお見送り、大変お疲れ様でした。
悲しみはまだ深くあるとは思いますし、消えてなくなる種類のものでもないのでお言葉に迷うのですが、鎌倉様がこのあともお元気でお過ごしくださることを願っております。
まだまだ暑いですので、お身体お大事になさってくださいね。
お母様のご冥福を、私も心よりお祈りいたします。