心臓が良くなったので珈琲を飲めるようになりました。

リモート死化粧

始まりの電話

とある雨の土曜日でした。
納棺のご依頼も入っていないので、歩いて美容院に行った帰り道に電話がきました。葬儀社さんです。
仕事のご予約かなと思って出てみると、
「丸山さん、黄疸(おうだん)には赤系がいいんだったよね?」と、慌てているご様子。
「はい、そうですが、どうされました?」

黄疸(おうだん)とは、血液中の黄色い色素ビリルビンが増加し、肌や白目部分が黄色く染まることをいいます。

聞いてみると、料金の関係で納棺師を頼めなかったご葬家さんがいるのだけれど、亡くなった男性の顔色があまりにも黄色いので、なんとかしてほしいと言われたとのこと。
「で、会社にあったメイク道具を持ってきたんだけど、どうしたらいいかなって丸山さんに電話してみたんだよー。」

そうでしたか、ふむふむ。と、故人様の黄疸の色味具合をお聞きし、顔色も黒っぽいとのことだったので、それなら少し暗めの赤色を使ったらいいですよとアドバイスをしました。

葬儀担当さん
葬儀担当さん

そっか、わかった、ありがとう。やってみるね!

丸山
丸山

はい!またわからないことありましたら、どうぞお電話ください。

担当さんも「じゃあまたねー」と言って、通話を終えました。

本当にこれでいいの?

電話をしている時、私は雨を避けるように建物の屋根があるところへ避難していました。
話を終えたので、また傘を開いて歩き出そうとして、ふと考えます。

丸山
丸山

あれ、これで良かったのかな?なんかもっと手伝える方法あるんじゃないかな?

困っている担当さんの顔と、彼を心配そうに見守ってるであろうご葬家さんの顔が思い浮かびます。
かといって、このあと出棺の予定と聞いているので、これから向かったとしても間に合いません。それに料金もいただけないとなると、なかなか難しい状態です。うーんどうしよう!

リモートで死化粧しませんか?

また担当さんに電話をしました。
「あ、丸山さん、どうしたの?」
「あの、担当さんが実際にお持ちになっているメイク道具を見せていただいたら、もっとアドバイスができると思うんです。」
この時はなんとなく、オンラインでメイク道具を見せてもらったらスムーズにできるんじゃないかと考えていましたが、はたと気づきました。

丸山
丸山

あ、この担当さんとラインしてないんだった…。

担当さん
担当さん

ほんと?いいの?ありがとう!丸山さんアイフォンだったよね?じゃあメールで画像送るね。

なるほど、携帯番号でできるメールならすぐにできる手段です。
画像見せてもらって、電話してアドバイス。で、メイクの結果を送ってもらって、それを見てまた電話してアドバイス…。うーむ、これは長丁場になりそうだなと、家に帰るのを一旦あきらめて、そのまま雨宿りしながらやり取りすることにしました。

担当さんのメイク道具を見せてもらう

これが持ってきたメイク道具だよと、担当さんが送ってくれた画像です。 
(ふむふむ。ファンデーションとチークと、コンシーラーかな?黒っぽいのはなんだろう?)

いったん電話。
「担当さん、真ん中の黒っぽいのはなんですか?」
「これねー、黒っていうか茶色っぽい赤なんだよね。」
「画像だと紫にも見えますけど?」
「紫より茶色って感じかなー」

「茶色っぽい色なんですね。あ、担当さん、右のほうにあるちっちゃい二つの入れ物は同じ色ですか?」
「あこれね、蓋と本体だねー」
「…そうですかー了解です」

画像を確認したらその画像を閉じて、電話をかける。というやりとりなので、「左下の方にあった丸くて白い入れ物」とか「真ん中よりちょっと右にあった小さいオレンジ色」と言うように、思い出しつつ話すので記憶力勝負なところがあります。
道具を見ながら話せるのなら、これのこと?それともこっち?とぱっと示せるのになと思いつつ。今度この担当さんに会ったら絶対ライン交換しようと思いました。

「担当さん、真ん中の黒っぽいのがほんとは茶色っぽい赤とのことですが、どんな色なのか、こう、手の上に伸ばして見せてもらえますか?」
と伝えて、届いた画像がこちら。

こんな色でした!
丸山
丸山

ほんとだ、黒じゃない。まさに茶色っぽい赤。

死化粧に必要な情報

ここまでで、茶色っぽい赤が使えそうだなと思いました。
しかし、この情報だけではアドバイスできないことにも気づきます。そう、故人様のお顔色です。
黄疸なので黄色っぽいとはお聞きしていましたが、明るい黄色かそれとも暗い黄色では使う色も違ってきます。はたしてどのくらいの黄色なのか…。

しかし故人様の顔色を教えてもらうにしてもさすがに言葉だとわからないので、画像を送っていただきたいところです。しかしご葬家様がそのことを許可してくださるかどうか…。
悩むけれどもこれはお願いしてみるしかないと、担当さんに打診をお願いしたところ、思いの外すんなりと了承いただけました。

担当さん
担当さん

(亡くなった旦那さんの)奥さんに許可もらったから、写真撮って送るねー。

丸山
丸山

ありがとうございます!恐れ入ります。非常に助かります!

ここ10年くらいの間に、携帯で写真を撮るという行為が日常化してきたので、納棺の現場においても故人様を写真におさめるという方が珍しくなくなってきました。納棺の世界でも時代の流れを感じる出来事です。

手順1 下地を塗る(茶色っぽい赤)

「お顔色は黄色味があって、全体的に暗いというか黒っぽい感じ」
と、担当さんより聞いて画像を開きましたが、??そんなに黄色味も黒さもないように見えます。
「担当さん、そんなにお顔色が悪いように見えないんですけど」
「そうなんだよね!ほんとはもっと黒いんだけど、撮ると(目で見てる色と)違っちゃうね」
「あ、スマホだとそういうことありますよね!わかりました。画像よりお顔が黒いとしたら、やはりさっきの茶色っぽい色を使ってください」
現実の色味がわからない以上、予測するしかありません。

肉眼とスマホでの見え方の違い
目で見た感じと違う例

この先は塗り方です。
「で、その色をごく薄くのばしてお顔全体に塗ってもらえますか?薄くっていうのはふわっとベールをかけたような感じで、色が強くなりすぎないようにお願いします。」お手本を示せないので、言葉で塗り方を伝えるのも難しいところです。じゃあ、全体に塗ったらまた画像送るねー、と担当さん。
電話の向こうではご葬家の奧さんも一緒にメイクをしてくださっているようでした。

手順2 ファンデーションをつける(暗めのお色)

いまだ私は雨宿り中です。これが冬だったら凍えていました。
しばらく待っていると、故人様のお顔に茶色っぽい赤を塗った画像がきました。見た瞬間、うわ赤い!と思いました。

丸山
丸山

お色味、結構赤いですが大丈夫でしょうか!?

担当さん
担当さん

画像はね、すごく赤いんだけど、実際はもっと薄いよ。

またもやスマホならではの写り方のようです。色味を補正してくれているということなのでしょうか。


気を取り直して、次は2色あるというファンデーションの暗めの色を塗ってもらうことにしました。
「これも塗りすぎないようにお願いします。お顔の上で伸ばすようにつけてしまうと、さっきの赤色もぬぐって取れちゃいますので、スポンジでスタンプを押すように薄くまんべんなくお願いします。」

  

暗い色のファンデーション
暗い色のファンデーション

手順3 チークをつける(ピンクでないお色)

しばらくしてファンデーションをつけた画像が届いたと思ったら、すぐに電話も来ました。
「丸山さん、だいぶいいよー。お顔色良くなったよ!奥さんも喜んでる。」嬉しそうな担当さん。
電話の向こうの心配そうだった声が明るさを帯びています。
「わぁ、それは良かったです。私も嬉しいです!じゃあ次はチークですね。」

「チークはピンク色ではなくて、いろんな色が混ざっている丸い方をつけてくださいね。」
うん、そうだよね、僕もこっちの色だと思ったよ!と担当さん。
メイクの着地点が見えて、ほっとしているご様子です。

いろんな色の混ざったチーク
いろんな色の混ざったチーク

手順4 口紅をどうするか(暗めのお色)

さあ、ここまで来たらもうちょっとです。
「ではお口元ですが、普段のお色味と比べて違いがあるかを奥様に聞いていただけますか?」
電話の向こうで話す声がして
「うーん、そんなに変わってはいないけどちょっと暗い感じがするってさ。」
「なるほど、ちょっと暗いですか。では口紅の暗い色の方を、ごく薄く、手の甲に伸ばしてから指先でちょんちょんとつけていただけますか?」
「わかった。じゃあつけたら全体の画像を送るね。」

 

暗い色の口紅
暗い色の口紅

最終確認

しばらくののちに、故人様のお顔全体の画像が届きました。
私が見ている画面上のお顔色だと少し暗い様に見えましたが、実際はとても自然なお色だとのこと。
画像を拡大してじっくり見ていましたが、肝心な部分に気がつきました。

首元を塗り忘れている画像
こちらはマネキンさんです
丸山
丸山

担当さん、もうちょっとです!首に塗るのをお忘れになってます。

担当さん
担当さん

あ、ほんとだ!忘れてた。じゃあ首に塗ったら完成だね。
丸山さん、ありがとう!

丸山
丸山

はい、お役に立てて何よりです!

首にメイクをし忘れるというのは、私も初めの頃によく先輩に指摘されていました。お顔のメイク、と言いつつも、納棺師はお首元まで注意深く観察して、色味を調節します。特に変色がある場合にはそうしないと、まるでお面を当てているようになってしまうからです。

リモート死化粧を終えて

電話が終わって、ほっと一息。
雨やどりはしていましたが外にいたので、湿気で髪はぼわぼわです。しかし、そんなこと気にならないくらい、やり遂げた気持ちになりました。あのまま電話を終わらせなくて良かった!

感謝と今後の課題

メールと電話を使った、アナログ手法でのリモート死化粧は、およそ40分くらいだったと思います。これがオンラインでできるようになって、やりとりがスムーズであれば、もっと短い時間でおこなえるようになるはずです。

今回、男性の葬儀担当者さんが、メイクに積極的であったことも実現できた要因だと思います。
現実のお色味とスマホを通して見た色味が違うという点は、クリアしていかなくてはなりませんが、協力してくれる方がいてくださるなら死化粧はリモートでもできる!ということを体験できて発見でした。
また新しい一歩です。

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