4月13-18日開催のデスフェス(@渋谷ヒカリエ)にて、4/14お昼より「死者をおくるということ 模擬納棺式」をさせていただきます。

お口元を整えるむずかしさ

納得していただけない

「こんな感じじゃないんです。」

新人納棺師の頃、この言葉を言われるのが怖かったです。
これは故人様の開いているお口に含み綿をお入れして整えた後、ご家族に確認いただく時のことです。

お顔の表情に違和感があって、いつもと違う。
ご葬家様にすんなり納得していただけないという事態に遭遇するたび、心の中でどうしようと焦っていました。
どうしようと思うのは、次の工程に進めないという焦りの気持ちもありましたが、口元をどう直せばいいかわからないから困ってしまうという気持ちも大きかったと思います。

最後のお化粧の時にも本人らしくないと言われることはあったのですが、お化粧をしない男性にも女性にも含み綿はおこなうので、私にとってはお顔確認がいちばん緊張する瞬間でした。

「その方らしいお顔」とはどういうことか

ご家族から指摘されること

含み綿をしている間、ご葬家様には別室でお待ちいただいたり、立会いをご希望されている場合でもこの作業は見えないように綿で隠すことがほとんどです。

こんなこともありました。

丸山
丸山

(柔らかい印象になるように、口元はすこしほほ笑んでいる感じにしよう)
お口元のご印象いかがですか?

ご葬家様
ご葬家様

「いつも難しい顔をしていたから、口元は微笑んだ感じじゃなくてキリッと真一文字の方がお父さんらしい」

ご指摘をいただき、口元をキリッとつぐんだ真一文字にお直しすると、ご家族は「そうそう、このほうがお父さんらしい」と微笑まれました。

他のケースでは、

丸山
丸山

(受け口なので、上くちびるがへこんでしまわないように綿で調節しよう)
お口元のご印象いかがですか?

ご葬家様
ご葬家様

親父は受け口だから、上くちびる部分は少しへこみがあった方がいつもの顔なんだよね。

この方の場合、上くちびるがへこんでしまう状態だったので良かれと思って綿をお入れしたのですが、ご希望にそわない結果でした。
上くちびる部分の綿をお取りして、その部分がへこんだお顔を見て息子さんは喜ばれました。

またある時は…。

丸山
丸山

(ご病気をされていたそうで頬がこけているから、含み綿でふっくら自然になるように綿を入れて整えよう)
お口元のご印象いかがですか?

ご葬家様
ご葬家様

長く入院していて痩せてしまったんだけど、頬がこけていた方がおじいちゃんらしかったから綿をしない方がよかったわ

その言葉を受けて、頬のへこんだ部分に入れた含み綿をすべてお取りして元の状態近くにお戻ししました。ご葬家様はそのお顔を見て安心されたようでした。

なぜ違うと言われてしまうのか

納棺師は、開いているお口元や落ちくぼんだ頬の部分に、含み綿を入れて自然なお口元に整えます。

どのくらい綿を入れて調節するかは、納棺師が自分の判断でおこなっています。
それは、納棺師の目線から見て自然に見えるという、いわば基本の形です。

基本の形では口をぎゅっと真一文字にすることはないですし、へこんだ部分や頬をこけているままにすることもありません。でも、先ほどの例のように、基本とは違う状態がいいと言われることもあるのです。

その人らしいお顔にするためには、納棺師の目線からだけではわからないことが多いです。

考えてみれば、ほとんどの故人様は初対面なので、普段のお顔を知らなくて当たり前です。
亡くなった方の普段の顔を知らないから、その方らしいお顔にできない。
というのが私の思う、その方らしさに近づけない大きい理由だと思います。

その方らしい生前の面影に近づける手がかりと、そのためにどうしたら良いかは、現場を進めるうちにわかってきました。

お口元をよりよく整えるために

1 写真を見せてもらう
何枚かの写真

考えてみれば当たり前なのですが、生前の写真をお預かりしてそれを見ながらお口元を調整していきます。
しかし納棺の現場では、写真を見せてくれる葬儀屋さんの方が少ない気がします。


ご葬家宅にお伺いをすると、じゃあご葬家様と打ち合わせをしてるからメイクまで終わったら声かけてね、ということも多いのです。写真がなくても含み綿をする過程で、こうしたら自然な口元だなとはわかるのですが、やはり写真があったほうがその方らしさに近づけることができます。

口元の形もそうですが、普段のくちびるの色、顔の血色、肉付き、眉の形やお化粧、髪型などたくさんの情報を得ることができますし、特にご葬家様の立会いがない場合は、写真がその人らしさを私に教えてくれます。

2 口を閉じなくてはならない、という思い込みを捨てる

口が開いてるから閉じてほしい、とはご葬家様からも葬儀担当者様からも言われることです。本当によく言われるので、納棺師も「口は閉めるものだ」と思い込んでいるふしがあります。
しかし、すべてのご葬家様がそう考えているわけではありません。

「寝ている時はいつも口を開けていたからぽかんと開いてるままがいい」
「半眼半口(はんがんはんこう)は仏様の顔だから、開いている目も口も閉じないでほしい」

こう思われる方もおられます。
前歯が出ているために、お口元を閉じると逆に不自然な印象になってしまう場合もあります。

口を閉じてほしい気持ちが強くあるのは理解した上で、それでも口を閉めたい自分の思い込みは捨てなければならないと私は思っています。

3 ご葬家様と方針を相談する 

歯医者さんに行った時、先生は治療を始める前に「何番目のここが虫歯なので、削ってから歯型を取って銀歯にしますね」と説明してくれます。
患者さんが口を開けている間に、勝手に虫歯を見つけて、説明もなしに歯を削り始めたりはしませんよね。

納棺師もご葬家様といっしょに故人様の状態を確認して、処置の方針(口元を閉じるor閉じないなど)をお伝えして、ご納得いただくこと(あるいは拒否)が必要と私は思っています。

私がご葬家様の立場だったら、聞いてほしいなと思います。
「口を閉じておきました」と勝手に口元を閉じたのちに事後報告をされるよりも、まず、閉じるのかどうしたいかを確認してもらいたいです。

一人一人どうしたいかはきっと違うので、寄りそうというのはきっとこういうことから始まるはずです。

写真があっても、ご葬家様の希望を聞いても、理想の形にはならないこともありますが、その時はまた細かな意見をいただいてご葬家様の思うお顔に近づけていきます。

今おもうこと

昔の私は、ご葬家様に(なんか違う!と言われたらどうしよう)とびくびくして、確認をいただく時間が、何事もなく過ぎたらいいなと思っていました。


でも今はそう言われたら、どこが違うのだろうか、その人らしさに欠けている部分ってどこだろうと、前向きに考えられます。
ご葬家様の「なんか違う」は、より良い処置に導いてくれる大事な言葉だと思っています。